理論的研究のための3つのツール



理論的研究は、新しい領域を創造したり、既存の領域を根本から発展させるために必要です。

例えば、信念対立解明アプローチは当初、理論的研究を通して体系化しました。

共同開発中のOBP2.0も理論的研究がエンジンになってます。

理論的研究の方法は、量的研究と質的研究に比べて学びにくいので、ここではその概略を示します。

⓪ 3種の神器

理論的研究を行うためには、研究テーマに関する知見以外に、哲学歴史に関する知見が
最低でも必要です。

3つのうちいずれが欠けても、理論的研究は満足に行えません。

研究テーマによっては、他にも求められることがあるかもしれません。

しかし全体としては、理論的研究を遂行するには、3つの領域に関する造詣を深める必要があります。

① 研究テーマに関する知見

さてまず、理論的研究を行う場合、研究テーマに関連する知見は起源から現在まで押さえます。

量的研究と質的研究は研究テーマにもよるものの、基本的に5年から10年ぐらい前までさかのぼって文献レビューすればだいたい事足ります。

量的研究と質的研は足が早いので、それぐらいのスパンで把握すればどうにかなることが多いのです。

でも理論的研究を行うためには、研究テーマに関連する知見は起源まで遡って押さえておく必要があります。

例えば、作業療法の場合、最低でも『完全保存版!絶対に読んでおきたい作業療法の古典7選』で紹介した文献を把握しないと理論的難題を解くことはまず無理です。

そうしないと、理論上の難題がなぜ生じたのかを根っこから理解できず、理論的研究によってそれを解き明かす理屈を構築できないからです。

また近頃は、文献レビューを電子データベースで行いがちですが、理論的研究の場合はハンドサーチも積極的に活用します。

理論的研究で必要になる知見は、電子データベースに掲載されていないことがあるからです。

② 哲学

哲学は基本的に、ギリシャ哲学から現代哲学まで主要な内容を押さえておきます。
テーマによっては東洋哲学も必要です。

哲学がわかると、理論的難題の意味がわかって、それを根底から解消できる可能性を見いだせます。

例えば、作業療法の場合、ある理論的難題は、プラグマティズムという哲学を理解しておかないと解くことは、まず不可能です。

それぐらい、哲学はそれぞれの領域の基盤として影響力を持っているのです。

哲学ってすげー!哲学者すげー!

読み方ですが、まず哲学全体の歴史的変遷を押さえておき、そのうえで個別の哲学書を読み込んでいきました。

ものすごく難解な書籍が多いですから、通常は1回の読み込みでほぼ理解できません。

なので、何度も繰り返して読むようにします。

その際、哲学書で設定された問題(≒目的)、採用した方法、その方法で問題を解いた結果を中心に押さえます。

哲学書はとっても難解な議論が多いので、中心にある問題、方法、結果を追うようにするのです。

また哲学の原著はギリシャ語、ドイツ語、フランス語など多様な言語で書かれています。

哲学者であれば、それらの言語で原著を読む必要があります。

でも、僕のようにヘルスケア領域の研究者が、その領域の理論的難題を解くために哲学を活用するようなときは、そこまで求められないと考えています(本当は駄目なんでしょうけど)。

とはいえ日本語版のみでは心もとないので、僕は研究テーマに直に関わるものは日本語版と英語版の訳書で、それも複数の訳書で内容を確認しながら理解するようにしています。

多角的な視点で内容を見ることによって、ギリシャ語やドイツ語などで直に読めないハンディキャップを補うわけです。



③ 歴史

次に、歴史です。

理論的難題の背景には、たいてい人類の歴史が影響しています。

そのため、それを根底から解くためには世界の歴史を押さえておく必要があります。

例えば、作業療法の場合、作業 occupation という中核原理が理論上曖昧になったまま発展した理由を理解するには、少なくとも第一次世界大戦、世界大恐慌、第二次世界大戦という出来事とその影響を把握する必要があります。

それを抜きに、「作業ってよくわからない」という状態が生じた理由を、そしてその状態を克服する術を見いだせません。

また歴史は、これまで人類がどのような難題に直面し、それをいかなる方法で克服してきたか(あるいは克服しそこねたか)を教えてくれます。

これが理論的難題を解消するヒントを提供してくれます。

先人たちの体験から学ぶのです。

歴史すげー、歴史研究者ってすげー。

しかしこれが、哲学の理解と同様にとても難しい。

歴史は、書き手の関心によって記され方が異なるし、世界では膨大な出来事が起こっていますから、ヘルスケア領域の研究者が限られた時間内でそのすべてを押さえることはできないからです。

なので、僕は人類の歴史に関する複数の全集をそろえておき、複数の観点から各時代の出来事に対する記述を確認するようにしています。

歴史全集の読み方は、人類史で認められる問題(≒目的)方法結果を中心に押さえ、それが現代にどう影響しているかを把握するというものです。

僕のようなヘルスケア研究者が、限られた時間のなかで人類の歴史から学ぶには、これぐらい焦点を絞る必要があります。

まとめると、理論的研究を行うためには、研究テーマに関する知見以外に、哲学歴史に関する知見が必要です。

理論的研究は1つの研究に対して、勉強する量が半端なく多いので、とても困難です。

でも新しい領域の創造、既存の領域の根底からの発展には欠かせません。

以上、理論的研究の方法の概略でした。